先日、美容室で髪に使うヘアオイルのおすすめを聞いたところ、とってもいいものがありますとのこと。長年通ってよくしてもらっている方のおすすめということもあり、すぐに購入しました。あくる日さっそく使ってみると、なぜか懐かしい香りが。一瞬戸惑ったのち、以前親しくしていた人の使っていた香りだったとわかりました。
香りの会社ではたらいていてもいなくても、香りが思い出と紐づいているのはよくあることだと思います。
脳が香りを嗅いで感情に変換される仕組み1)をあらためて調べてみました。匂いセンサーによって受け止められた匂い分子は嗅細胞で電気信号に変えられ、匂いの情報として大脳に伝わっていく。匂いのイメージをつくる嗅皮質に伝わった後、過去の記憶と関連付けて「何の匂いか」を特定する海馬、「快い匂いか不快な匂いか」を判断する偏桃体、ホルモンの分泌に関わる視床下部に伝わる。
▲匂いを知覚(自覚)する仕組み 1)
よく耳にする「香りは脳に直接作用する」というフレーズは、上記の海馬や偏桃体といった大脳辺縁系に伝わる速度が視覚などと比べてより「短時間で速く」伝わることから言われているとのことでした。
さらに東京大学の東原教授の研究グループの最近の報告2)によると、匂いが引き起こす“好き嫌い”やそれに基づく行動が、匂いセンサー(嗅覚受容体)レベルで影響を受けるとし、一つ一つの嗅覚受容体は、“好き嫌い”といった「価値(意味)」情報を持つこともわかってきています。
「一般的に、匂い物質は複数の嗅覚受容体を活発にはたらかせます。匂いが引き起こす情動や行動は、活性化されたそれぞれの嗅覚受容体が持つ情報「価値(意味)」が足し算され、そのバランスで決まることがわかりました。」(東原教授)
これらの研究を応用すれば、新しいフレーバー(食品香料)やフレグランス(香粧品香料)をデザインし、一人ひとりにあうようなオーダーメイドの香料が作れるかもしれない。また、それを活用して、同じ空間にいるすべての人が心地よい環境をつくることもできるかもしれない。東原教授らは、香りの評価基準をつくり、人の香りの感じ方を予測して自在に香りをデザインする技術の実現を目指しています。
こんなに研究が進んでも、ひとが香りを感じる仕組みにはまだまだ謎が多いといいます。たとえばある香りを「快」と感じるか「不快」と感じるか。これは人それぞれでしょ、と思われるかもしれませんが、不思議なのはその感情が時間を経て変化する仕組みです。
「昔は好きな香りだったけど今はちょっとなあ。」
「昔はよくわからなかったけど今は好き!」
味覚でも同じようなことがありますよね。
未解決の謎がまだまだ眠っている嗅覚の分野。すべて解明されたとしたら、上記の東原教授が目指しているような、完全オーダーメイドの香りも夢ではないかもしれません。ただ、個人的にはわからないことがあってもいいなと思います。
見てきたことや聞いたこと、今まで覚えた全部、でたらめだったら面白い。
香りの謎を追究して、たくさんのひとにいい香りを届けたいと思う一方で、全部わかってしまったら面白くない。甲本ヒロトがいつか歌ったように、そんなあまのじゃくな気持ちを抱えつつ、明日も香りに向き合っていきます。
1)科学技術振興機構, かぐわしきこの世界~匂いをコントロールし、みんなが心地よい環境をデザインする~, 2020-01, 閲覧日 2021-07-27, https://scienceportal.jst.go.jp/gateway/sciencewindow/20200116_w01/
2)N Horio, et al., Contribution of individual olfactory receptors to odor-induced attractive or aversive behavior in mic., Nature Communications volume 10, Article number: 209 (2019)
書いた人『TM』
入社5カ月、営業2カ月。
最近ぬか漬けを始めました。